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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)196号 判決

一 請求原因に記載の事実は、すべて当事者間に争いがなく、右事実関係に照すと、原告日本建鉄は本件審決の名宛人にはなつていないけれども、本件訴訟は、原告両名の共同出願にかかる本件意匠出願において、拒絶査定に対する審判請求が原告三菱電機のみによりなされた不適法のものであるとしてこれを却下した審決に対する不服の訴であつて、原告両名は右審判請求は共同でなされたと主張して共同で本訴を提起しているものであり、このような場合、原告日本建鉄には、特許法第一七八条第二項にいう審判の「当事者」と同視すべき訴の利益があるものと認めて原告適格を肯定するのが相当である。

二 そこで、審決の取消事由の有無について判断するに、前記争いのない事実によれば、出願代理人である弁理士が特許法第一三二条第三項の規定に反して共同出願人のうちの一名のみのために審判請求をするという不自然な行為をあえてしたと認めるに足る特段の事情の認められない本件においては、原告主張どおりの事由により、本件審決は違法であつて、取消を免れないものというほかはない。

三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は、正当としてこれを認容することとする。

〔編註〕 本件における請求原因は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

原告らは、弁理士葛野信一を共通の代理人として、昭和五二年七月一五日、特許庁に対し、原告らが意匠登録を受ける権利を共有する物品「冷凍シヨーケース」に係る意匠につき、意匠登録出願(昭和五二年意匠登録願第二七八五六号)をしたが、昭和五四年二月一九日、拒絶査定を受けた。そこで、同弁理士は、原告らの代理人として、同年四月二六日、右拒絶査定に対する審判を請求したが、その審判請求書の「請求人欄」には、原告三菱電機株式会社(以下「三菱電機」という。)のみの住所及び名称を記載した。これに対し、特許庁は、同庁昭和五四年審判第四七六八号事件として審理したうえ、同年九月二六日、「本件審判の請求を却下する。」旨の審決をし、その謄本は、同年一〇月一一日、原告らに送達された。

二 審決の理由

本件審判は、登録を受ける権利が三菱電機及び日本建鉄株式会社(以下「日本建鉄」という。)の共有に係る意匠登録出願の拒絶査定に対する審判であり、かかる審判の請求は、上記共有者の全員が共同してしなければならないところ、本件審判の請求は、その一部の者である三菱電機によつてなされたものであるから不適法の請求であつて、その補正をすることができないものである。したがつて、本件審判請求は、意匠法第五二条の規定により準用する特許法第一三五条の規定によつて却下すべきものとする。

三 審決の取消事由

しかしながら、審決は、次の理由により、違法として取り消されるべきである。

1 意匠登録を受ける権利の共有者(以下「共同出願人」という。)がその共有に係る権利について審判を請求するときは、共同出願人の全員が共同して請求しなければならず(意匠法第五二条の規定により準用する特許法第一三二条第三項)、また、審判を請求する者は当事者及び代理人の氏名及び住所その他所定の事項を記載した請求書を特許庁長官に提出しなければならない(特許法第一三一条第一項、準用関係前同)ものとされている。したがつて、共同出願人の全員が一人の代理人に拒絶査定不服の審判の請求を委任し、その代理人が共同出願人のためにその審判を請求するには、一通の審判請求書による場合、その請求人欄に当事者として共同出願人全員の氏名を記載すべきことはいうまでもない。しかしながら、反面、共同出願人の代理人から一通の審判請求書が提出された場合において、それが共同出願人全員の「共同して請求した」ものにあたるかどうかについては、単に、審判請求書の請求人欄の記載のみによつて断定すべきものではなく、その請求書の全趣旨や当該出願について特許庁側の知りえた事情等を勘案して綜合的に判定すべきものである。

2 これを本件についてみるに、本願意匠について意匠登録を受ける権利を共有する原告両名は、かねて、弁理士葛野信一に拒絶査定不服の審判の請求を含む意匠登録出願に関する一切の手続をなしうる権限を委任するとともに、右委任事項を明記しかつ原告両名の各代表者がそれぞれ記名押印した委任状各一通を同弁理士に交付し、右各委任状は、本件出願に際し、本願意匠の願書等とともに、特許庁長官に提出された。そして、本願意匠については、昭和五四年二月一九日拒絶査定がされたが、その査定書には、「意匠登録出願人 三菱電機株式会社外一名」及び「代理人 葛野信一」の記載があつた。弁理士葛野信一は、原告両名のために右拒絶査定に対する審判請求書を作成して、昭和五四年四月二六日特許庁長官に提出したが、その請求書には、「審判事件の表示」の欄に右拒絶査定に対するものであることを明記し、「代理人」、「請求の趣旨」及び理由の欄にも所要の記載をしたものの、「請求人」の欄には、誤つて、三菱電機の名称及び所在地のみを記載し、日本建鉄の名称及び所在地の記載を脱漏した。ところで、本件審判請求書を受理する特許庁としても、本件出願と審査についての前記経緯及び右請求書の全趣旨等に徴し、本件審判の請求が原告両名のためにされるものとの真意を当然に知りうべき情況にあつたことは明らかである。なお、同弁理士は、右審判請求の際改めて原告両名の委任状を提出しなかつたが、これは、出願時の委任状に委任事項として審判の請求について記載されていれば改めて委任状の提出を要しないという特許庁の実務慣行があるため、これに従つたものである。

以上の事実を綜合すれば、弁理士葛野信一が前記審判請求書を提出することによつてした本件審判の請求は、その請求書の記載上、「請求人」としては、三菱電機の名称と所在地のみがあつて日本建鉄の名称と所在地は表示されていないけれども、それは単なる誤記であつて、実際は右両名のためにされたとみるのが相当である。

3 したがつて、右審判請求は、共同出願人の全員である原告両名が共同してしたものとするに妨げなく、意匠法第五二条の規定によつて準用する特許法第一三二条第三項の規定に違背するところはない。そして、右審判請求書は、原告両名の共同請求に係るものであるにもかかわらず、その「請求人」の欄には日本建鉄の名称及び所在地の記載が脱落しているのであるから、特許法第一三一条第一項の規定に定める方式について不備があることになり、したがつて、本件審判事件を担当する審判長としては、同法第一三三条第一項の規定に従い、請求人である原告両名の代理人葛野信一に対し、相当の期間を指定して、右不備の補正を命ずべきものであつた。

しかるに、本件審決は、審判長による前記補正命令の手続を経ることなく、本件審判請求は不適法かつ補正することのできないものであるとして、これを却下したのであるから、違法な審決であつて、取消を免れないものである。

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